公益社団法人 北海道国際交流・協力総合センター
HIECC/ハイエック(旧 社団法人北方圏センター)
Hokkaido International Exchange and Cooperation Center
2014.11.14
北の国境観光(稚内・サハリン)実現に向けて
2014年11月14日・JIBSN竹富セミナー(於:西表島)
竹富町の単独自治体施行 100 周年記念事業
※本稿は上記セミナーのプレゼン資料に加筆訂正したものである。
公益社団法人北海道国際交流・協力総合センター(HIECC)
調査研究部上席研究員・北太平洋地域研究室長
高田 喜博(TAKADA Yoshihiro)
2014.11.14
北の国境観光(稚内・サハリン)実現に向けて
2014年11月14日・JIBSN竹富セミナー(於:西表島)
竹富町の単独自治体施行 100 周年記念事業
※本稿は上記セミナーのプレゼン資料に加筆訂正したものである。
公益社団法人北海道国際交流・協力総合センター(HIECC)
調査研究部上席研究員・北太平洋地域研究室長
高田 喜博(TAKADA Yoshihiro)
(2014.06.13)
GCC諸国と日本・北海道の経済交流促進フォーラム in ルスツ
2014年6月13日(金) ルスツリゾート
ハイエック調査研究部 森内 壮夫
中東の湾岸協議会(GCC)諸国と道との経済交流促進フォーラムが6月13日(金)ルスツリゾート(留寿都村)で行われた。主催が経済産業省、その他北海道と湾岸協力理事会駐日大使北海道ご来訪歓迎実行委員会が協力して開催されたもので、GCC加盟6カ国のうちの4カ国の駐日大使が出席した。一行は14日(土)は地元留寿都でアスパラ収穫を体験し、15日(日)は世界に先駆け導入された陽子線がん治療装置の視察のため北海道大学を訪問した。
そもそも、湾岸協議会(GCC)とは何か?中東の地域協力機構で同地域から原油輸入の7~8割を頼る日本にとっては、大切なパートナーであることは間違いない。安倍晋三首相も昨年の5月と8月、そして今年の1月に中東のGCC加盟国を含む中東訪問を繰り返し、エネルギーの生命線とも云えるGCC各国と日本との国交の重要性を印象付けている。
以下、箇条書きに湾岸協議会概要について触れる。
〇正式名称はThe Cooperation Council for the Arab States of the Gulfで「GCC:読み方はジーシーシー」は略称「Gulf Cooperation Council」の頭字語
〇1981年設立。アラビア半島の産油国から成る地域協力機構。通貨統合や経済連携など中東版EUを目指している。
〇加盟国はサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、クウェート、オマーン、カタールの6カ国。中東の親米国が顔を揃える。本部をサウジアラビアのリヤドに置く。
〇設立の背景にイラン革命、イラン・イラク戦争などのペルシャ湾岸地域の緊張があり、安全保障の観点から、近隣加盟国の結びつきを強める必要があったとされる。
〇憲章では「湾岸協力会議は、(イスラム教を基礎とした)過去の伝統を引き継ぎ、発展させ、制度化したものであると同時に、一方で湾岸地域における安全保障および経済発展を目指すものである」と記載され、イスラム教が結束の基礎にあることが明記されてある点で、特徴的。
〇対日本との貿易額(GCC6カ国合計、2012年:財務省貿易統計)
・輸出 約12兆6,167億円(ほぼ100%エネルギー関連)
・輸入 約1兆9,930億円
・日系企業数:452社(2011年)
・在留邦人数:5,636人(2011年)
〇日本とは小泉政権時に物品とサービス貿易の分野を対象としたFTA交渉を始め、現在も非公式の中間会合を重ねている。昨年湾岸協力会議(GCC)・シンガポール自由貿易協定が中東域外では初めて発効。
北海道経済産業局が旗振り役となり、昨年3月にカタール国とアラブ首長国連邦にて道産食材等を売り込む「北海道フェア」、7月にはサウジアラビア大使館にて道産食材を使用した「イフタールパーティー」、11月にはサウジアラビアでの「北海道フェア」、今年2月には道内食関連企業のトップ40名が参加した大規模なビジネスミッションがドバイ・カタールに派遣されるなど、ここ1~2年北海道では官民による中東諸国へ食や観光を売り込む取り組みが活発化している。今年10月からドバイのマーケットに設置する「JAPANブース」の出品商材等の募集・選定作業が進行中で、「日本・北海道ブランド」の中東売り込みは過熱していると言えよう。
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パネルディスカッション
当日は第1部でパネルディスカッションが行われ、第2部で道産食材使用のムスリムに配慮した食事を供したレセプションが開催された。第1部のモデレーターは経済産業省北海道経済産業局長増山壽一氏が務め、パネリストとして、アラブ首長国連邦サイード・アリ・ユーセフ・アルノウァイス特命全権大使、バーレーン王国ハリール・ビン・イブラヒーム・ハッサン特命全権大使、クウェート国アブドル・ラフマーン・フムード・アルオタイビ特命全権大使、カタール国ユセフ・モハメド・ビラール特命全権大使が臨席。
パネリストとして参加した国際協力銀行(JBIC)代表取締役専務取締役前田匡史氏は、中東通として知られ、増山局長のモデレーションに解説を加えるコメンテーター的な役割を担っていた。
1)カタール国ユセフ・モハメド・ビラール特命全権大使
「カタールからの原油輸入量は日本の原油輸入全体の12%を占め、LNGも同様12%を占めている。日本はカタールにとって重要なパートナー。特にLNGについてはロシア、イランに次ぐ埋蔵量をほこり、生産量は世界一と大きな産業に育っている。日本とはすべての分野においてパートナーとして手を組みたいが、とりわけ進んだテクノロジーの分野で情報を共有していきたい。
北海道は自然資源が豊かで、素晴らしい環境。我々の国民を受け入れるために、私にできることがあればお手伝いをしたい。カタールから多くの旅行者が北海道を訪れることを願っている」
2)クウェート国アブドル・ラフマーン・フムード・アルオタイビ特命全権大使
「1961年の独立以降クウェートと日本は友好的な関係を築いており、我が国の産油量の2割は日本に向けられ、それは日本の原油総輸入量の7%に相当する。クウェートは日本との関係をより深化させることを望んでおり、特に技術や教育の分野の連携を望んでいる。より多くのクウェートの学生が日本の大学に留学し、日本の先進的な教育を受けてほしいと願う。
北海道はとても美しい地域。植生や地形が素晴らしい。また、すべてが秩序だって整然としていることにも驚かされる。ムスリムの受入は難しいものではない。ハラールや豚肉の扱いなども、難しく考える必要はない。それがクウェートからの旅行者を阻害する大きな要因とはならない。オリンピックの開催をにらみ、日本でも様々な標記が英語併記になるだけで、ムスリムにとっての食べ物の問題は大きく改善され、日本はより住みやすい国になる」
前田氏コメント
「国内産業の9割以上が石油関連が占めているため、代替産業の模索が急務。また、クウェートには「日の丸油田」があり日本の自主開発油田の半分以上を占める採掘を行ってきた。日の丸油田はJBICの融資も受けている。現在は採掘ではなく原油購入・販売を主な業務としている」
3)バーレーン王国ハリール・ビン・イブラヒーム・ハッサン特命全権大使
「バーレーンという国名は「2つの海」を意味し、島に湧く淡水と島を囲む海水を意味する。バーレーンは日本同様島国、中東の金融の中心を目指して、積極的に多国籍企業の誘致を行っている。観光にも力を入れていいるので、是非北海道から多くの観光客が訪問してくれることを願っている」
前田氏コメント
「バーレーンは33の島からなる島国で、人口130万人、国の面積も760平方㌔と小さい。原油の生産が主産業だが、埋蔵量も少なく原油に頼らない産業の育成が急務。中東ではドバイ、カタールに次ぐ金融の中心として、主に、橋一本で繋がっているサウジアラビアとの結びつきが強い国」
4)アラブ首長国連邦サイード・アリ・ユーセフ・アルノウァイス特命全権大使
「GCC6カ国は、構成国それぞれは小さな国かもしれないが集まると経済的なインパクトは大きい。UAEの原油生産の44%が日本向けで、日本の原油総輸入量の23%に相当。対日本のLNGの輸出も多い。日本からの進出企業も300以上あり、日本との繋がりは深い。現在UAEから来日している52人の学生が日本の大学で学んでおり、本国のUAEの若者も日本へ強い憧憬の念を抱いている。UAE人子弟のアブダビ日本人学校へのUAE人子弟の受け入れも盛んで、日本語を流ちょうに話すUAEの子供も増えている」
前田氏コメント
「UAEは化石燃料のエネルギー産業中心が90%以上を占め、圧倒的に化石燃料エネルギーに依存する経済構造を変えるべく、原油などに頼らない産業構造転換にいち早く着手した。たとえば、アルミニウム精製を始めた。そのために、アフリカ諸国に対し戦略的に投資し、ボーキサイトを調達できる体制を整えた。アルミニウム精製は膨大な電力を消費するため、原子力発電所の設置を推進し効率的な電力供給の実現を果たした。化石燃料の自国消費を抑えることで、輸出に回し外貨を稼ぐ意図がある。原油可採年数が100年を切り、更なる産業の多角化に挑んでいる」
前田氏総括コメント
「日本とGCC諸国の関係は、エネルギーの調達先としての単なるカスタマーから互恵的なパートナーへ変貌を遂げようとしている。お互いの友好な関係を築くためには、相手国から石油を購入するだけではなく、相手国を良く知る必要がある。GCC諸国の富裕層は夏が暑いのでと避暑に行く。行先を聞いて驚いたが、マレーシアやインドネシアに行くという。中東に比べれば涼しいかもしれないが、日本に比べると桁違いに暑い。なぜそのような暑い場所を避暑に選ぶかと言えば、マレーシアやインドネシアはムスリムの同朋が多くいる国で、ムスリムを受け入れるためのサービスが充実しているから。ハラールの問題もクリアされている。日本が彼らを受け入れるためには、やはり最低限の体制を整えホスピタリティを示すことが重要。
イスラーム教をひも解くと、なぜ豚がハラーム(禁忌)なのか、アルコールがダメなのか非常にプラクティカルな観点から分析されていることに驚かされる。豚肉は処理が難しく、食肉加工技術が進んでいない預言者モハメットが生きていた時代は、食中毒を起こしやすい食べ物だった。高利貸しも禁止されているが、それも働かずして、お金を得ることはアラーの教えに反するから。イスラームをミステリアスなものとして捉えるのではなく、知識としてきちんと整理すること。それがイスラーム圏の方々が来た時に気持ち良く接することができる、備えとなる。
北海道は積極的に売り込む必要がある。同じムスリムの海外他地域からの入込旅行客も増え、ある程度「北海道ブランド」が通用する地域も出てきている。今回GCCとの縁ができたことを大切にし、売り込む。まずは北海道のいいところ、たとえば高品質の農作物、新鮮な魚介類、世界一の雪質などをパッケージ化して売り込み、効率よくブランド化ができればインバウンドも期待できる」
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松島みどり経済産業副大臣は「今日は歴史的な一日。なぜならば日本の他地域に先駆けて、北海道という自治体とGCC諸国が直接対話し、繋がった日だから。北海道は日本人にとってもロマンを感じさせる場所。ヨーロッパやカナダにも負けない品質を誇るパウダースノーを有し、食べ物もおいしい。GCCには“超”が付くほどの富裕者層がいて、英国の百貨店ハロッズの高級品を買い漁る。その購買欲を日本に仕向け、是非日本・北海道でお金を使っていただきたい」と挨拶した。
レセプションでは高橋はるみ北海道知事が「北海道でもムスリムの方々がいらしても十分なおもてなしができるように準備をしています。実際アセアン諸国からのイスラーム来道観光客も増加しています。加森観光さんをはじめ、食事の面でもムスリムに配慮できる施設も増えてきました。GCC諸国の皆さまとますます強い結びき、たくさんの皆さまをお迎えしたいと思っています」と挨拶。各大使は道産食材をふんだんに使用した料理に舌鼓を打ちながら「OISHII」を連発していた。クウェート大使夫人は函館の水産加工会社「かくまん」のいかめしを手にし、「このような食べ物は初めて見ました。面白いですね」と興味を示していた。
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記録写真
札幌市のムスリム・コミュニティ
調査研究部 森内壮夫
※本稿は季刊HOPPOKEN163号に掲載した同タイトルの記事をホームページ用に加筆したものである。
札幌マスジド外観
札幌マスジドでの礼拝
ある冬の金曜日、正午の札幌マスジド(モスク)。「アッラー以外に神はなしと私は証言する。ムハンマドはアッラーの使徒であると私は証言する。礼拝のために来たれ。成功のために来たれ」抑揚をつけたアラビア語のアザーン(祈りへの誘いの朗唱)に呼びこまれるように、信者が次々と礼拝室に集まってくる。アザーンが終わるとこの日のイマーム(導師)が英語で説法を始める。この日の説法はハラール(イスラームで赦されたこと)の重要性についてである。「研究に没頭して空腹になり、ハラールではない食べ物を口にしないように。肉体的な欲望を満たすことは簡単だが、そういう時こそアッラーのことを考え、ハラールの大切さを思い出すようにしてほしい」と留学生が多数を占める信者に対し説く。取材当日、マスジドを案内していただいたタウフィーク・須見さんと筆者以外はすべて外国人信者である。集まっていた60数名の信者は東南アジア系、中東系が大多数を占め、数名のアフリカ系が混じる。イスラームの集団礼拝は毎週金曜日と定められており、札幌マスジドでも毎週行われ、多い時には100名以上の信者が集うという。
金曜日の集団礼拝風景
取材した日には、外国人信者60~70名が祈祷をしていた
日に5回の礼拝時間が掲示されている。季節や地域により礼拝時間が変わる
日本人ムスリム用のクルアーン
礼拝室は男女分かれて設置されている
洗浄室も完備されている
集団礼拝に参加できない場合は、個別に礼拝に訪れる
イスラム教徒人口
日本政府はイスラーム教徒を含む宗教別人口統計資料を作成していない。宗教統計に明るいアメリカのシンクタンクPew Research Centerによると、日本には18万5000人(2010年)のイスラーム教徒が定住しているという。では、北海道にはどのくらいのイスラーム教徒が暮らしているのか?法務省の在留外国人統計に基づき、イスラーム教徒が多数派の国を出身とする道内在住外国人の数に、当該国のイスラーム教徒比率を乗じて計算したところ、おおよそ1000人強のイスラーム教徒が道内に暮らしていると算出される。あくまでも理論上の数字ではあるが、道内在留外国人22000人のうちの4.5%を占める計算となる。配偶者が入信したケースや日本人イスラーム教徒を加えると、数はさらに増えるだろう。出身国別でみると、インドネシアが200名と突出しており、バングラデシュ、中国、マレーシア、パキスタン、エジプトがそれぞれ100名前後と続く。大多数は札幌近郊の大学に通う留学生や研究者と推定されるが、中には中古車商や飲食店経営者等の永住者も少なくない。
北海道イスラミック・ソサイエティ
道内のイスラーム教徒集住地域である札幌市と小樽市にはそれぞれモスクがあり、イスラーム教徒コミュニティの信仰の支えとなっている。札幌マスジドは、宗教法人北海道イスラミック・ソサイエティ(以下、HIS)が管理している。1990年ころから賃貸家屋の仮の礼拝所を使用していたが、礼拝施設の利用者や日本全国の信者からの寄付を受け2007年に中古物件を約3千200万円で購入し改装した。建物の看板には英語で「Sapporo Masjid 」と記されているが、イスラーム的な意匠を凝らしていない建物は、一見してそこがモスクであるとは気づきにくい。内部は男女別の礼拝室やウドゥー(清浄)のための洗浄施設を設置するなど礼拝に必要な最低限のリフォームを行っている。HISは1992年に北海道大学の留学生が中心となり任意団体として設立され、2010年には宗教法人格を取得した。運営責任者は毎年選挙で決定し、現在の代表責任者はバングラデシュ出身のチョウドリィ氏(当時)が選ばれている。礼拝のほかには勉強会の開催や、ムスリム同胞旅行者の宿泊場所としても利用されている。近隣住民との軋轢は集団礼拝時の自転車の駐輪等についてくらいで、宗教的な迫害はほとんどないという。
北海道イスラミックソサイエティの会長(当時)、チョウドリー氏(右)と取材した日の説教師
HISの活動で特徴的なのがイスラーム墓地の取得である。教義上火葬は禁忌であるため、イスラーム教徒は土葬が基本である。衛生的な観点から火葬のみを認めてきた日本において、イスラーム教徒の土葬墓地用地取得は困難である。現在全国でイスラーム教徒用の霊園が数か所しかないが、そのうちの一つがよいち霊園(余市郡余市町梅川町563番地25)である。もともとは札幌に住んでいた敬虔なキリスト教徒が土葬墓地を探していた際に、よいち霊園が協力し、土葬を許可した経緯があるが、それを知ったHISがはたらきかけ、イスラーム専用墓地取得の実現に至った。現在取得済の区画面積は128㎡(1区画=4㎡、32区画)で、数名が埋葬されている。埋葬には初期工事費用に10万円程度必要で、維持費に任意のサダカ(寄付金)を募り、管理している。
イスラーム圏インバウンド訪道旅行者への対応のうごき
2012年9月千歳市にあるアウトレット・モール・レラが商業施設では全国に先駆け、礼拝室を設置した。続いて12月には、新千歳空港の国際線ビル2階に120㎡の礼拝室が試験的に設置された。2014年冬には三井アウトレットパーク(北広島市)でも同様の施設が新設されている。宗教を問わず誰でも利用できる空間であり、洗浄用の水場(レラ)や真北を示す印が設置されている。全世界的には国際空港の礼拝室設置は、いわばスタンダード、ない方が珍しく、日本では成田空港を手始めに設置が少しずつ進んできているものの、対応の遅れが目立つ。世界各地域のハブ空港には、場合によっては異なる宗教専用の礼拝室を設けていることもある。北海道では、ASEAN地域の訪道層が従来の華人中心から、イスラーム教徒の富裕層へシフトしてきており、そのうごきを見据えた対応として、最近急づくりで設置され始めてきている。
一方で、加森観光のルスツリゾート(留寿都町)はリゾートホテルとしては全国に先駆けて、2012年10月にマレーシアハラルコーポレーション株式会社から「ローカルハラール」の認証を取得。翌年からはインドネシア人ムスリムのフードアドバイザーを雇い、「ムスリム・フレンドリー」な食事を提供している。使用材料や成分がわかりにくい日本の食事を不安視するイスラーム教徒に対して、安心して日本の食事を楽しんでもらうためのホスピタリティの一環だ。世界で16億人、ASEAN地域だけでも2億5千万人のイスラーム教徒市場を視野に、積極的にマーケティングを進めており、既に大口ツアー客の利用があり手ごたえを感じているという。U.S.Halal Associationによるとハラール食産業は全世界の食産業の16%のシェアがあり、ASEAN地域ではマクドナルド、KFCなどの世界的な外食チェーンが早くからハラール商品を提供し、域内での収益を上げている。ASEAN地域から特に人気の高い北海道でハラール対応を充実化させることにより、潜在的な観光客獲得の期待が持てるといえよう。
札幌で中古車と建設機械の輸出業を営むパキスタン人のアリフ・ハニフさんは「日本はムスリムにとって暮らしやすい土地であることは間違いない。日本人は親切だし、差別や悪意のある迫害は少ない。ただ、ムスリムにとっては食べ物の原材料を知ることは非常に重要。多くのイスラーム旅行者の来道を望むのであれば、レストランのメニューや食品・成分等の英語表記は最低限必要。食べれるか食べられないかはムスリムが各々判断を下す」と話す。アレルギー成分表示が義務づけられている現在、対応は難しくは無いはずである。
千歳空港の国際線ロビーの近くに礼拝室が設置されている
アウトレットモールレラの礼拝室は利用頻度が高いとのこと
プレハブの建物ではあるが、男女別の礼拝室が設置されている
洗浄室(ウドゥー)も完備されている
宗教法人日本ムスリム協会札幌連絡事務所代表タウフィーク・須見さんインタビュー
モスクの前に立つ須見さん
宗教法人日本ムスリム協会札幌連絡事務所代表のタウフィーク・須見さんにお話をうかがった。須見さんは10数年前にイスラームへ入信後、インドネシア人の女性と結婚し、2度のメッカ巡礼を経験した、札幌在住のムスリムである。
***イスラームの魅力についてお聞かせください。
「まず、イスラームは易しい宗教であることです。イスラームの教えは日本の道徳観念と似ている点が多く、受け入れやすいものでした。また、イスラームはアッラーと信仰者の1対1の関係が基本です。信仰に牧師やお坊さんのような介在者が存在しません。イスラームの信仰を個人個人のペースで行うことが可能で他の人間によって強制されないことも魅力です」
***札幌でイスラーム教徒であることについて、何か感じることはありますか
「最近の日本人は宗教的な活動に関して無関心であるか、マスコミによって形成されたフィルターを通して見るという印象があります。特にムスリムに対しては、911以降全世界を席巻したネガティブ・プロパガンダが日本人に少なからず、影響を与えている印象があります。札幌で直接的な宗教的迫害に遭遇したことはありませんが、イスラームが正しく理解されていないことが原因で誤解されることはあります。イスラーム教徒の友人数名と普通に一緒に歩いていただけで、突然警察に通報されたこともあります。(笑)。特徴的な装束が目立ったのかもしれません。そういうことをきっかけに、正しいイスラームを知って頂ければ本望です」
***札幌で日本人のイスラーム教徒は増加しているのですか?
「私は昨年3人の日本人の入信に立ち会いました。近年は、年間数名の入信者がいます。今後も増加する傾向にあると思います。」
***旅行者として来道するイスラーム教徒が増加しているようですが、接する際にどのような点に留意が必要ですか
「接する機会が多い方は、是非正しいイスラームの知識を得ていただけたらと思います。また一口にイスラームといっても、出身国や地域、民族等により多種多様な文化があります。ですので、宗教面と文化面両方からの理解が必要だと思います。また、人間ですから敬虔なムスリムもいれば、そうではない者もいます。イスラームと文化的あるいは人間的な事柄を混同せず、対応いただければいいと思います」
***イスラームと接する機会が増える傾向にある中、行政に期待することはありますか?
「信仰に関しては、行政にも正しい宗教的知識を知ってもらうことを期待します。イスラーム圏からの観光客の受け入れに関しては、他国と比較して対応が遅れている感が否めません。イスラーム人口を大きなマーケットとして捉えると同時に、バランスの取れた国際化が必要だと感じています。せっかく来てくれるお客様ですから、必要最低限のおもてなしとして、相手のことを知ることが必要です。そうすることでトラブルの未然防止にも繋がりますし、結果的に、来道者の増加につながると思います。過去の中国人、韓国人、ロシア人等への対応経験を生かし、先手を打つことが大切だとも感じています。北海道は世界的に見てもブランドです。イスラーム教徒を呼び込むことは、観光に限らず北海道を元気にするチャンスだと思っています」